新型コロナの感染拡大が収まらず、「復興五輪」のスローガンがかすんでしまった中、東京五輪の競技が21日、開会式に先立って始まった。先陣を切るのは、ソフトボール。午後には、札幌、宮城、東京で女子サッカーの試合もあり、「なでしこジャパン」がカナダと対戦する。宮城以外の会場は無観客で、感染対策に神経を使う過去にない五輪のスタートだ。
11:30 無観客で「首都圏からの誘客見込めない」
浜通りの福島県いわき市にあるいわき湯本温泉では、旅館協同組合の薄羽裕一理事長(51)が自ら営むホテルいづみやで、22日からの4連休の準備をしていた。県周辺からの予約はあるが、東京への緊急事態宣言や五輪の無観客開催で、首都圏からの誘客は見込めない。「各旅館のスタッフにワクチンの職域接種もして、準備万端でいたのに。悪い材料がそろっちゃって」と声が沈んだ。温泉街は東日本大震災で減った客足が回復する前にコロナ禍で打撃を受けた。五輪の県内開催に福島の現状の発信を期待していたが、「お客さんがいないんじゃ、どこでやっても同じじゃないか。歓迎の気持ちも表だって伝えられず、もどかしい」。
福島県内は23人 新型コロナ感染確認
福島県は21日、新たに23人の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表した。
10:45 小池知事「もう終わった?」
東京都の小池百合子知事がソフトボールの日本ーオーストラリア戦の試合終了とほぼ同時刻に、防災服で都庁入り。日本が勝利したことを伝えられると「もう終わった?あっ、だっていま、私(が移動中の車内で)見ていたの、じゃあ何」と驚きつつ、日本の勝利に笑みを浮かべた。
その上で記者からどのような大会にしていきたいか」と尋ねられると、「無観客、そして、コロナ禍の中で安心、安全な大会で開かれることを一つずつ、積み重ねていきたい」と強調した。
10:45 ソフト日本は初戦を快勝
ソフトボールの試合は、日本が初戦のオーストラリア戦を8-1で快勝。本塁打攻勢で5回コールド勝ちとなった。
日本―オーストラリア コールド勝ちし、喜ぶナイン=7月21日、福島県営あづま球場で
10:40 「五輪中止を!」球場の外では抗議
あづま球場のある総合運動公園の外ではいわき市の斉藤春光さん(69)ら3人がプラカードを持って「五輪中止」を訴えていた。最初は公園の中に入り、球場周辺の規制エリアのそばまで近づいて抗議活動を始めたが、組織委員会の関係者から「公園を貸し切っているので、アピール活動はやめてほしい」と言われ、追い出されたという。斉藤さんは「福島第一原発事故の処理と東京五輪は似ている。安倍前首相は『アンダーコントロール』、菅首相は『コロナに打ち勝った証し』。どちらも発言に中身がなく、対応がころころかわる。無責任だ」
五輪中止を訴える人たち=福島市のあづま総合運動公園近くで
10:10 「五輪やめるべき」相馬市のスーパー会長
相馬市のスーパー「中島ストア」で、地元産の野菜などを店に運ぶ中島孝会長(65)。東京電力と国に損害賠償を求めた訴訟で、原告団長を務める。「福島が復興どころではない2013年に『アンダーコントロール』だとして五輪が招致されたときは、嘘も休み休みいえと、強い不快感を感じた。いま福島は形の上では復興に向かっているが、その一方で被害は続いている。避難指示が解除されても戻った住民はごく一部。いまだ戻れない人、生業(なりわい)が成り立たない人もいる。それに、コロナ禍の国民の命の問題を考えると、今からでも五輪はやめるべきだ」と話した。
10:00 内藤のホームランで勝ち越し
ソフトボールの試合は3回裏、一塁手の内藤実穂(みのり)選手の大会1号となるツーランホームランで勝ち越し。その後、藤田倭(やまと)選手もツーランホームランを放ち、追加点。
9:45 球場近くでも「寂しい。何も聞こえない」
あづま球場のある総合公園を出ると、人通りはほとんどなく、田園地帯にせみ時雨が響く。公園すぐ外の自宅で畑作業をしていた橋本善次さん(65)は「寂しいね。高校野球をやっている時はここまで観戦が聞こえてくるけど、何も聞こえないね」と汗をぬぐった。「コロナになって、五輪を開くことが最優先になってしまい、復興五輪はどこかに消えていってしまった。球場で風評被害が続く地元農産物をアピールしてほしかった」
9:10 VIP席で橋本氏、丸川氏が日焼け止め
VIP席は屋根がなく、太陽が直撃。東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長、丸川珠代五輪担当相が手に日焼け止めを塗り出す。
そのころ、相馬市のメンタルクリニックでは…
女性を診断する蟻塚医師=福島県相馬市のメンタルクリニックなごみ
一方、浜通りの福島県相馬市にあるメンタルクリニックなごみ。9時の診療開始から次々と患者が訪れた。診察室では2013年から震災や原発事故のPTSDやうつの患者を見続けてきた精神科医の蟻塚亮二医師が女性を診察。「ずいぶん長期間安定しているね」。スタッフの一人は「午後6時過ぎまでこれからどんどん患者さんが増えます」。蟻塚医師は「こうして話せる場があればいいのだか…」。震災から10年超、まだ悲しみや苦しみを抱えて話せていない人がたくさんいることを、蟻塚医師は心配している。
9:00 ソフトボールの日本対オーストラリア戦がスタート
五輪開会式に先立って、福島あづま球場でオーストラリアが先攻でプレイボール。ヘリコプターの音と選手の掛け声が響く中、13年ぶりに五輪に帰ってきた上野投手の1球目がミットに収まり乾いた音を響かせた。
ソフトボールの日本対オーストラリア戦が行われている福島あづま球場=原田遼撮影
そのころ、福島県浪江町の請戸漁港では…
競りもなく、ひっそりとしていた。漁港の男性職員(46)は「漁港が再開したのが最大の復興。でも、福島第一原発の処理水を海へ流されたら、また風評被害で逆戻り。復興五輪と言われても気持ちよくない」
8:30 日本の先発は上野由岐子
3大会ぶりに実施されるソフトボール初戦のスターティングメンバーが発表された。日本の初戦の先発は上野由岐子投手。2008年の北京五輪で金メダルを取った時のエース。
気温はじりじりと上がり、気象庁によるとこの日の予想最高気温は34度。 球場外の暑さ指数(WBGT)は警戒レベルの26.9に上昇した。
8:20 聖火リレーのコースだったJR常磐線双葉駅前
家屋を撤去する重機の音が響く。リレーコースから50メートルほど離れただけで、倒壊した店舗や家屋がそのままになっていた。消防団の詰め所にある時計は、地震が起きた「午後2時46分」ごろで止まったまま。電車が到着しても降りてくる人はなく、近くの伝承館に向かう送迎バスは無人のまま出発した。
消防団の詰め所にある時計は、地震が起きた「午後2時46分」ごろで止まったまま
7:30 あづま総合体育館「お金かけるところ違う」
福島あづま球場から300メートル先のあづま総合体育館は、消防や警察の待機所となっていた。体育館は東日本大震災直後には、避難所だった。福島市消防本部の男性(50)は「震災時、避難してきた方は狭い場所でプライベート空間もなく本当に大変そうだった」と思い出す。「観客が入ればもっとよかったが、無観客でも開催されるので、緊張感を持って仕事をします」と気を引き締めた。
体育館の駐車場で消防車の誘導をしていた、運営スタッフの40代女性は「福島市は震災の被害も少なかったが、浜通りの方は今も帰宅困難地域が残っていて、人通りもほとんどない。今年は熱海でも大きな災害もあった。五輪に反対する人の気持ちは分かるし、私もお金かけるところ違うんじゃないと思う」と複雑そうに話した。
6:45 続く福島第一原発の事故収束作業 福島・大熊町
福島県大熊町の東京電力社員寮前で、福島第一原発に向かう社員らがバスに乗り込んだ。五輪期間中、がれき撤去などトラブル時の影響が大きい作業を見合わせるが、汚染水処理などはいつも通りに続ける。40代の男性社員は「復興五輪として世界から注目されるので、気を引き締めて安全管理を徹底したい」と話していた。
東京電力の社員寮から福島第一原発へ向かうバス=福島県大熊町で
6:00 「オリンピック感は全然ない」福島駅前
JR福島駅は五輪の装飾はほとんどなく、人通りも少ない。報道陣向けのシャトルバスの誘導を委託された人材派遣会社の鈴木直人さん(39)は2019年に岩手県釜石市で行われたラグビーワールドカップで仕事をした際と比較し、「ボランティアが駅からにぎやかに案内することもなく、オリンピック感は全然ないですね。有観客ならば復興にもつながったと思うが・・・」とポツリ。青森市から派遣されたスタッフの笹谷優和さん(49)は笑顔で報道陣を案内をしつつも「東京からいらっしゃる方が多いので、感染が少し心配」と話した。